GWは横断していた
横断とは、横切ること。横または東西の方向に断ち切る事を指す言葉である。
また日本には、世界に誇るべき素晴らしい山域が存在する。たったの3000m程度しかない山にしては圧倒的な積雪量と気象の悪さ、そして何より絶対的な標高以上に山の高さを助長する谷の険しさ。後立山と立山の間に深く切り込む黒部峡谷と、そこから圧倒的に突き上げる峻峰剱岳がそれである。
また、古来より日本に伝わる伝統的な登山スタイルに、黒部横断と言われている形態がある。一体誰が始めたか黒部横断。。どういった発想があれば大町側から黒部川を越えて剱岳に至ろうと思いつくのか。
正にcreativityの権化と言える。
それは最早、一つのジャンルを形成する程に偶像化が進んでいる。
何にせよ、日の本の登山行為の魅力と困難さを果てしなく凝縮して詰め込んだ圧倒的濃度を誇るのがこの黒部横断と言える。
という黒部横断の、非常に易しいバージョンをやってきました。季節は残雪期でルートも登攀要素の皆無なジェネリック版黒部横断です。(笑)
ちなみに記録的にはカトさんの書いたこっちのが秀逸なので是非↓
タクティクス
参考になるかは分からない。
装備とか
- 炊事用品、湯沸かし用品は全て個人装備
- 防寒装備は重視で
- 食料も削減せず
- 夜はα米、朝は全てマルタイラーメン
- タンパク質はプロテイン、必須アミノ酸はEAAから摂取。
- 登攀用品は、懸垂だけこなせれば良いので簡素に。(ex.ハーネスはスリングで代用)
- ワカン装備→一度も使用せず
- 外張りは夏用のレインフライ
- ネオプレンソックス
- アックスはクォークを一本(小窓の王手前のトラバース以外は問題なし)
行程とか
- 赤岩尾根〜牛首尾根〜ガンドウ尾根〜早月尾根というオーソドックスなもの
- 黒部本流はS字峡の吊橋使用
- 東谷はスノーブリッジへの期待
- 実働予定は6日。予備日3日。
ギャラリー
Day1 2020年4月30日
6:30大谷原~赤岩尾根~15:40冷池山荘
非常に天気が良く、それ故アホみたいに暑かった。いや夏山並みに暑い。肩に食い込むマカルーに居座る厳冬期用シュラフとDASパーカーが恨めしい。とにかく暑く休憩を取りまくってゆっくり冷池へ。初日は体が動かん。
Day2 5月1日
5:00冷池山荘~布引山~7:48鹿島槍ヶ岳南峰~牛首山~10:30牛首尾根2302m
この日は一転吹雪。北アルプスの3000mに迫る主稜線でひたすら左から風雪の拳を浴び続ける暴力。体バグるわ。
ちゃっちゃと行動して10:30に幕営したのでほとんど半チン。昼寝てしまって夜寝れず。ここ二日は睡眠不足で気持ち悪くて行動食の固形物が喉を通らない苦しい時間だった。
Day3 5月2日
5:20牛首尾根2302m~2061m~9:03 1639m~13:05 S字峡
予報通り朝からスッキリ晴れてくれた。テンション爆上げグリセードで一瞬で300m下げれた。薮が出てきてからは我慢比べの始まり。
そして今山行最大にして最凶の核心である東谷の横断は、まさに奇跡と言うべきスノーブリッジが残っており、成功に大きく近づいた。
この日は流石に疲れ果てたが、寝てしまうと夜寝れなくなっていつもの二の舞になるので晩飯までは頑張って起きた。DLしてきたワイスピのお陰である。
Day4 5月3日
5:10 S字峡~ガンドウ尾根~16:08仙人池ヒュッテ
この日は個人的には大きな核心となってしまった。快適な登行を期待していたガンドウ尾根が酷いほどの薮であったのである。
2時間で水平距離300mしか進まない薮に途中若干切れかかったが、なんとか持ち堪えて雪セクションまで行くと一気にスピードアップし、誰の足跡もついていない生娘のガンドウ尾根にオレの生きた証を刻んできた。
Day5 5月4日
5:30仙人池ヒュッテ~池の平小屋~池平山~小窓~11:50三の窓~池ノ谷ガリー~14:13剱岳~早月尾根~19:07馬場島
さぁここからは剱岳。今山行のハイライトである。天気にも恵まれて最高の一日だった。
実はこの日は本当は三の窓までだけの予定だった。
エッ!?
と思ったそこのあなた。正しい。我々はやってのけたのである。丸2日分の行程を一日で。仙人池から北方稜線を経由して剱岳に登り、早月尾根を駆け下って馬場島までとは、よくやったものである。
次の日の朝にもう一度この登山靴を履きたくないという思いがそれだけ強かったのだろう笑
最初は半信半疑で早月小屋までいけるのではと冗談半分で言っていたが、段々現実味をおび始め、ノリと勢いだけで遂に最後まで行ってしまったのである。
何より良かった。馬場島で待望のコーラを一飲みした後、私たちはタクシーで山から足を遠ざけた。
黒部横断を終えて
何より、成功して良かった。
一番簡単な時期とルートとはいえ、敗退する可能性は十分にあったし、際どい局面もたくさん潜り抜けてきた。
そして赤岩尾根、牛首尾根、ガンドウ尾根、早月尾根と全ての登下降において象徴的な尾根をたどり、妥協なく完遂した。スタイルを踏襲した良い山行だったと思う。
今回は大きな反省点などは無いが、厳冬期にこれをやれるかという話になった時、やはり圧倒的な壁があると言わざるを得ない。
でも布石にはなった筈だ。必然的に内在する自分に足りないものと、自分が優れているところ(ココ重要)。黒部はそれを教えてくれた。
迷走することも多いが、それが人生なのだろう。自分には今日を生きることしかできない。
本当に書ききれない事や思いがいくつもあるが、それもそっと胸の内に秘めておこう。
そして想いを募らせながら日々を生きよう。
できる事なら登り続けよう。
俺が俺であるために。
#試練と憧れ
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