【雨の読書3】みずうみ

誰にも言っちゃ、だめだよ。ふたりだけの秘密……

川端康成『みずうみ』より

※原題は『みづうみ』表記


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「魔界」

軽井沢のトルコ風呂での一幕に端を発するこの物語は、川端康成の小説の中でも特に異彩を放っている衝撃的な作品として有名である。

いったいどこで聞いたこの作品、もう忘れてしまったが、気付いたら本のwish listに入っていて、古本屋に行くたびに探していたのがなかなか出会えなかった。そしてとある日、実家に帰る前にいつものようにブックオフによって物色していたが、大した成果もなく実家へ。うちは本の重みで家が壊れてしまったくらいに本があるのだが、到底本棚に収まり切らずに溢れてうず高く積まれた文庫文塊の一番上。この本はあった。偶然にも父親が買っていて、数日前に読了したばかりだというのだ。

父は作家の人がおすすめの本について書いたエッセイで知ったとのことだが、今日まさに探して出会えなかった本と偶然対峙し、珍しく積読しないまま読み切ったというわけである。


文学に対する体系的な知識があるわけでもないし、そもそも書評なんていっぱい溢れているので、今更そんなことを書いてもしょうがない。そもそも、この本は僕の力量ではなかなか理解することができなかった。どんな話? そう聞かれたら、よくわからない話、と答えざるを得ない。こんな体験は久しぶりだった。

発表当初は評価が分かれ、嫌悪を示すものも多かったという。ただ、後期川端作品に、魔界のテーマが盛り込まれるきっかけとなった作品でもある。川端康成の小説は、夢が移り行くように話が転換されると表現されるが、本作はその夢が脈絡のないまま不気味に広がり、しかし人物や物語が因果を持って繋がる精巧さが素晴らしい。

「意識の流れ」

川端康成の文学は、「意識の流れ」という手法を持って書かれている。小説の筋や時間の観念を抑え、人物の心情変化にフィーチャーした書き方だが、この作品はそれがちゃんと感じれる。気になる人は、内的独白や意識の流れについて調べてみると良いと思う。

また、三島由紀夫による『みづうみ』と、川端文学に対する批評は非常に興味深かった。

その三島から「不快な読後感を情熱的に」、「独特の繊細な表現」で薦められた中村真一郎が、「この作品は私にとっては戦後の日本小説の最も注目すべき見事な達成だと感じられた」と評したこの作品、やる気の起こらないうだるような暑い日に、独特な雰囲気の世界観を感じてみてはいかがだろうか。

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