いかさま師 後日譚
更新遅くなりました
っていうことをすっかり忘れていたのだから遅くなって当然ですね。
最近はガチの廃人生活を送っています。
さて本題。
去る2021年3月27日午後6:30 名張屏風岩の「いかさま師 5.12b/40m」をRPすることができた。
トライ日数は6日間。リードは4トライだった。
今回は自分のこれまでの集大成ともいうべき、このトライについて、取り留めもないことを書きたいと思う。故に、読んで面白いものではないので悪しからず。
お忙しいそこのアナタ。ブラウザバック推奨です。
経緯
自分がクラック初心者だった丁度一年前にそれをトライするクライマーを見て刺激を受けて以来、心の中でひそかに大きな区切りとして目標にしていた。
しかし、その目標を口に出すには憚れるくらい、そんなくらい僕には大きな壁だった。
そして、思うように動けない2020年前半が過ぎ、僕は多くの人の支えで、夏には5.11aのクラックをオンサイト出来るまでには成長することができた。
しかし、まだまだいかさま師にはトライすることさえ許されないと思っていた。
この段階で、自分は一つの決意を固める。それは、
「十代のうちにいかさま師をレッドポイントすること」
であった。
クライミングを始めて五年が経っていたが、初めて、計画的で長期的な目標を設定した。
その時期に、僕はこう綴っている、
やれば出来るし、もっと強くなれる。
一年という時を経て、僕は自信がついていた。
僕は強くなった。
あと一年で、どれだけ強く、なれるだろう。
僕は真のナバラーに、なれるだろうか。(中略)ナバラーとしての矜持はあるか
僕もそろそろ覚悟を決めようか
https://richlink.blogsys.jp/embed/a871bef2-9001-3664-9e5e-ef17ed3025c6
これは、暗にいかさま師を示唆した(今見返すと何とも生意気な)発言である。
目標が具体化かした僕は、とある重要なクライミングをすることになる。
2020年10月3日 屏風岩 モスラパワー 5.11cのオンサイトトライである。
このルートがオンサイト出来たら、いかさま師に挑戦する権利があるのかなと、ぼんやり考えていた。
というか、このルートごときで落ちていたら、いかさま師なんて絶対に登れないと思って臨んだ。
結果は、終了点2m下でのフォールという何とも情けない結果に終わった。
気落ちした僕に再び訪れた転機は、約一か月後の11月8日 モーニングライトだった。
ここで僕は、Hot summer 5.11b(体感c)のオンサイトに成功する。
調子に乗った僕はそのまま12月に訪れた屏風岩で、思いがけず、いかさま師のトライを開始することになる。(実際クライミング自体の調子も上がっていた。)
いかさま師について
いかさま師とは、三重県名張市香落渓の屏風岩という岩の正面にある、一本のきれいなスプリッタークラックにつけられた名だ。
別のクラックから節理の柱を越えて乗り移り、豪快な二段ハング越えと、そこから始まる地獄のようなオフフィンガー~シンハンドの怒涛のジャミング合戦を体感できる。
正確無比なジャミング技術、フェイスムーブ、ハング越え、オフフィンガーのジャミングという多彩なムーブが続く40m(⁉)を登りきる持久力、否応なく起こるランナウトへの耐久力、そして絶対あきらめない精神力が要求される。
日本全国津々浦々、5.12bのルートをオンサイト出来るクライマーは山のようにいる。
しかし、いかさま師をオンサイトしたのはただ一人であり、名だたるクライマー達がその地獄の門で、落とされているという。
しかし、分かってしまえば登れるルートであることも確からしい。
自分はトライし始める前に、「いかさま師はいかさま師でしか練習できない」と言われたのが、強く印象に残っている。
あれほど、あそこまで悪いサイズがあれほどのスケールに及んでいるルートは、無い。
よく見ると、このルートは垂壁か、ともすればやや寝ている。
クラックは非常に素直なパラレルで、カムはどこでも入るし、ジャミングできないところも皆無である。フットジャムをしっかりと決め、体の重心を壁側に近づけ、目の前のクラックに一手一手、集中してジャミングしていけば、理論上は落ちないルートである。
だが、何故かあんなにも苦しい。
これが、5.12bという、被っていないクラックとしては最早異様な高グレードの所以である。
なお、名張グレードは総じて辛いと言われており、いかさま師もその例に漏れない。
YosemiteのTales of power 5.12bの方が体感は易しいらしい。
自分はこのグレードのクラックを他に登っていないので、その厳しさを相対的に形容することは出来ないが、名張のような延々と続くスプリッターに慣れていないクライマーは、ともすれば更に難しく感じるかもしれない。
それが、いかさま師というルートである。
トライの記録
Day1~2
Day3
二月に単独でwork 次の日も行ったが、大寒波による大雪で、敗退。
Day4~6
タクティクス 他
プロテクションなどのタクティクスも、相当細かいところまで詰めたのですが、書きすぎるとオンサイトの方に迷惑だし、クライミングが持つ冒険性を損ねてしまうことになるので控えることにしました。
といってもテンション上がってかなり書いてたりしますよね…
ごめんなさい
ギアに関して
靴は、自分は堅めの靴を推奨します。当然、可能な限りつま先が薄いものを。
ハング越えてすぐはかなり細い(実は#0.4くらい)なので柔らかいののほうがよさそうですが、傾斜がない分、思いっきりねじ込むということと、ルートの特性上、長いので、ふくらはぎがパンプして、足の親指が逝きます。
TCプロがやっぱり無難だと感じました。
ロープは80mでギリギリ。軽量化のため、可能な限り細いものを準備するべきです。
カムに関しては、延長も含め人それぞれですが、カラビナとカムのスリング部をゴムなどで固定することを強く推奨します。いかさま師の核心は、カムセットとクリップにあるといっても過言ではありません。そんな時にビナが回っていたらなんて、考えたくも無いでしょう。単純にカムを決めたいときって、前のカムから距離が開いていることが多く、いかさま師ではそれが顕著なので、危険です。
また、洗濯ばさみを少し改造して、カムのアンクリップの時間を省略する作戦もあります。僕はやっていません。
kimi先生曰はく、「そんなことをしないといかんようでは、登れませんよ。」とのことです(笑)
いかさま師では、テーピングも重要な戦術
↑は一応、自分のなかで出たテーピングの結論。
もっと薄くても良いかもです。
あっ因みに小指側は巻きます。
因みにRP最大の障壁とも言えるものは猛烈な花粉症でした(笑)
RP当日の記録
20210327 屏風岩
皆はモーニングライトに行ってしまったので今日は一人。
屏風にはmont-bellチームとせーたろさん、掃除人nkmさんなどがいた。
マシュマロでアップ。
連日のワークの疲れが抜けきらない。
12:30に本気トライ一便目
完全に決めきる気で取り付く。
普通に強度がある下部を、痺れるランナウトでこなす。
せーたろさんにお借りしたDMMのナッツをホリ込んで、流れるようにハング越えのムーヴを起こす。
ここで新タクティクス
#0.5を2つキメル。そして一個をずらす。
核心部
長く苦しいオフフィンガーを越え、#0.75のセクションまで到達。予定では一つカムを入れるところだ。
しかし、前腕の乳酸はプロテクションセットを許容してくれそうにない。
結局、右への屈曲が始まる0.75の所から、ハング下まで10mほど激落ちした。
呆然
強度が高いいかさま師で一度落ちるということは、その日のRP率が著しく下がることを意味する。
昼寝後、14:30に出した二便目では、オフフィンガーがすっぽ抜けた。#0.5すら越えられず、高度が下がる。
メンタルが完全に藻屑のように崩れ落ちるその音を、自分の動悸で正確に感じていた。
内心、この時点でもう今回の合宿でのRPは不可能だと感じた。
この疲労感の中、三便目を出しても登れる気がしない。
ただ、三便目が出せるように二便目の時間を少し早めたので、懸垂でカムを回収して準備をする。
私のパンプは二時間以上レストしても、そう簡単に取れるものでは無くなっていた。
日が陰り、香落渓に昼とは違った風が吹き始めた。岩のぬくもりが取れ、フリクションが一気に増す。
一年のうちで、最高クラスに良い条件が、整った。
せーたろさんが木こりをやり、コンディションの良さを確認。
18:00
本気のなばらー以外は皆帰ってしまい、昼間の喧騒を失った屏風岩の正面壁で、二つの5.12クラックの登攀が開始される。
鈴木さんは木こりのRPトライ。メランコリックな自分はもちろんいかさま師だ。
右側の木こりの、ちょうど自分と同じ高さくらいに、鈴木さんがいる。
ハングを超えた後は、新しいタクティクスの0.5二本キメを捨て、最小限の力で核心を突破する。中間レッジにいる鈴木さんのガンバコールも、せーたろさんの落ちろビーム含有のガンバコールも、憎い憎いヒノキ花粉入りの香落溪の空気も
全て取り込んで、ジャミングパワーに変換する。
一便目に落ちた高度に達したとき、同じくカムを決める余裕が無かった。
今回は、迷わなかった。
このシチュエーションになったら、絶対、迷うまいと決めてた。
最後のカムをはるか足元に残して、僕は最後のシンハンドと戦った。
一手出す。
吠える。
ここで落ちたら、15m近く落ちるだろう。
僕のキャメロットZ4は、耐えてくれるだろう。
だが、はっきり言って墜落は絶対に許されない状況だ。
だが数手進むと、僕はいけると確信した。
ハイステップ気味にフットジャムを決め、とうとう♯1が入る所に到達。このサイズなら絶対に落ちない。
腰あたりに素早くカムをセットし、クリップ。
続くいやらしいシンハンドも、安定感にかけながらも確実に上る。
六日間のワークで、♯1まで広がってからのいかさま師では、ただの一度も落ちたことがない。
つかんだテラス。
咆哮がこだまする。
上がりきった心拍を落ち着かせながら川の対岸を見ると、道路から藪先輩とmiwaさんが観戦していた。
そして隣では、まさに鈴木さんが木こりの核心のデッドに到達。
取り付き、駐車場、そしていかさま師のテラスから、ガンバコールを一身に浴びて、鈴木さんはデッドを決めた!!
クライミングで、心底熱くなれた。
僕は最後に襲ってくるフレアしたシンハンドに備えて、テーピングを全てはがす。
このルートのオフフィンガーやシンハンドでは、テーピングなんてしけった花火のように役に立たない。
はっきり言って、終了点の1m下でも十分に落ちられる。
慣れない素手のジャミングで、嫌なクラックに精一杯手をねじ込み、フルパワーのハイステップで伸びあがる。まだまだ油断できない。40m出切っているロープはとんでもない重さだ。
そう。
これこそが
いかさま師というルートだ!!!
必死で伸ばした左手が、甘い棚をつかんだ感触を、僕は忘れることが無いだろう。
普段クライミングで声が出ることはあまりないが、この日だけは、何度も通った終了点で、感情を爆発させた。
僕に力をくれた、冷ややかな渓谷の風に打たれて、しばし完登の酩酊に身を委ねる。
40mのルートには、あまりに少ないプロテクション。
最初の二本はスタート用なので実質は7本だ。
さすがに、少なすぎると反省している。
このどれにも、体重を預けなかった。
振り返ると、私を取り巻く闇の延長線上で、いかさま師はいつもと変わらずそこにあった。
そしてこの日も、変わらず夜は更けていく。
超絶豪華なバウムクーヘン祭り。ビッグで買ったMonsterを添えて
MonsterといえばJonathan Rea
HONDA信者のボクでもレイのブレーキングはマジで痺れます(笑)
ミーハーなマルケス信者のように(?)レッドブルがあればよかったですが、なかったんです。
いや、レイもたいがいミーハーか(笑)
いかさま師を、登ったという事①
自分が初めて名張を訪れたのは、2018年の12月。全てTRだったが、ゴールデンボンバーもサキサカもこれなんですかも登れなかった。
その次は大きく飛んで2019年の9月。この時にリードでこれなんですかを完登。このあたりから徐々にクラッククライミングに傾倒し始めた。
そして、自分は競技スキーをやっていたので、12月中頃~3月まではガッツリ拘束されてクライミングなんて出来たもんじゃないという有名俳優並みの過密スケジュールで日本のスキー場を回ってますので、時間的制約はかなりあった。
明けて2020年の3月は、まだ5.11aのクラックすらまともに登っていなかった。
そこから自粛期間を経てトラッドに傾倒。
本記事冒頭の流れへと接続される。
こう考えてみると、意外に早い段階で登れたなってこと。
クラック初めて一年半。途中2,3か月のブランクが二回ある。
更にコロナ。
やるじゃん、俺。
いかさま師を、登ったという事②
とーぜん、これでは終わりませんからね。星の数ほどあるルートの一つを登っただけですから。一等星でしたけど。
いかさま師が終わると、心の霧がすーっと晴れて、いろんなビジョンが見えてくるのです。
自分の短期目標は現人神です。あとはミティゲーションやデッドライン。
行きたい場所は実はYosemiteです。自分のクラック技術がどこまで通用するか。
Tales of PowerとSeparate Realityは登りたいですね。Heaven,Cosmic Debriなんかも、どれほど絶望的なのか、見てみたい!
後述の生涯目標の一つも、触れてみたいです。
最近はボルダラー気味です。突破力、フェイス力を上げていきます。
実は環境も整ったんで。
5.13くらいは登らねば。
さて、高校(?)でいかさま師が終わりました。
最初は大きな目標として十代って思ってましたがあっさりでした。
目標は強気に行こうかと思います。
大学では、5.14と四段を目標にトレーニングをします。
中期目標はユグドラシルと三段です。
クラックは海外の5.13を落としたいです。
その先にある「フリーの」現時点で考えうる最終目標を言います。
それは、El Capを自分の手足だけで登ることです。
立ち止まることなく、進む。
Matt Kuehl Blogs: Climbing El Capitan: Zodiac VI 5.7 A3+
今回も常体と敬体が混ざってます。ごめんなさい。
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